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ご挨拶

「経済&哲学」のサイトへようこそ!

本サイトは,一橋大学経済研究所内に設立された「規範経済学研究センター」(2014年6月~2022年3月)ホームページのリニューアル(発展継承)版です.

規範経済学センターの目的は、人と社会にかかわる難題に向けて、経済学の射程を深く、大きく拡げることでした.柱は次の3つです.

  1. 規範の生成・浸透・消滅プロセスを論理的に、また、実証的に分析する研究、すなわち、「規範の事実的(実証科学的)分析」
  2. 事実的分析に潜む規範的判断を明示化する研究、すなわち、「事実の規範的分析」
  3. (分析者自身の視点も含めて)規範的分析それ自体の被制約性、制度負荷性を批判的に問い返す研究、すなわち、「規範の規範的(規範哲学的)分析」

本サイトは,規範経済学よりも,さらに広く,人文学・社会科学に広く関心をもつ人の情報交換の場としてつくられました.発起人の1人として私自身の問題関心を簡単に述べ,ご挨拶に代えたいと存じます.

一橋大学経済研究所から帝京大学先端総合研究機構に移ってから5年経ちました.ニパウイルス感染症ワクチンの発見,癌転移「寝返り」細胞ブロック法の発見など,文字通り,最先端の発見を行う自然科学者たちのただ中で,人文学・社会科学の「理論」の意味と役割を問い返す日々でした.

人文学・社会科学の理論の役割は大きく,「問題の発見」と「解法の展望」にあると考えられます.歴史的現実を生きて存する人々(個人や集団)の姿を知ることなしに,「問題の発見」はなし得ません.法や制度・政策,社会運動,そして個人の苦闘を支えることなしに,「解法の展望」は期待できません.

新古典派経済学における「問題の発見」は,二度の大戦を経て,1950年代には,ほぼ尽くされた感があります.一般(不)可能性定理,パラドックス,ジレンマなどと呼ばれる主要な定理には,全体主義に抗しきれなかった人類の苦い歴史が,結晶化されています.
一方,「解法の展望」は,より長い時間をかけて生み出され,分野の細分化やアプローチの多様化をもたらしながら,現在に至ります.

21世紀の新たな四半世紀を迎えるいま,理論は,新たな「問題の発見」の時期にさしかかっているように思います.戦争を含む災禍が次々と継起する中,これまで出されたさまざまな「解法の展望」を反照しつつ,問題それ自体を再定義する必要があるように思われます.

「理論」は個人が、自分自身の体験に潜む個別特殊な問題を、条件付き定言命法として定式化することを可能とします。

「理論」は個人が、新たな制度・政策を構想する公共的討議の場において、マイノリティの立場から問題提起することを促します。

いかにテクノロジーが進化しようとも,政治が混迷を深めようとも,理論の役割とその基本的方法は変わらないでしょう.発見されるべき問題は,歴史的現実を生きて存する個人や集団に潜み,「理論」による発見を待ち受けているはずです.展望されるべき解法は,法・制度・政策,社会運動,そして個人の苦闘に顕現されて,はじめてその力を発揮し得ます.

「規範経済学研究センター」の設立に深くかかわる人を少し紹介します.石川経夫教授は,カール・マルクスの「能力に応じて(働き),必要に応じて(受給する)」のフレーズを,労働こそが必要となる経済,と読み替えました.塩野谷祐一教授は,マルティン・ハイデガーの「投企」概念をもとに,経済学の目的最大化行動仮説を超え出でるヒントを探しました.鈴村興太郎教授はアマルティア・センの厚生主義概念をてこに,帰結主義を超える経済学理論を求めました.そして,センは,The Idea of Justice(2009)に,次の言葉を記しています.

もし誰かが、この世界を変える力,つまりはこの世界の不正義を減らす(と確信できる)力を持っているとしたら、端的にそれは,行為を実行する十分な理由となるであろう(協力行為がもたらす利益を,慎慮的に検討した結果,実行することとしたなどと,仮想的な理論で装う必要はない)Sen(2009, 389-390).

 みなさまとたくさんおしゃべりできることを,心より楽しみにしています.

帝京大学経済学部&先端総合研究機構 後藤玲子